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幸福な恋におちている

第1章 碧に吸い込まれる


ㅤ寸秒の間お互い顔を見合わせると、ルイ君は私の意図を正しく読み取ってくれた様で、何も言わず手の力を抜いてくれた。



(──…少しでも、受け止めたいと思った)



ㅤ過去に囚われて立ち往生してしまっている彼の傷が、重荷が、多少なりとも緩和するなら、それを受け止める事が今の私に出来る唯一の事だと思い至った。



──ルイ君の瞳が潤んでいる。

ㅤ油断すれば今直ぐにでも溢れてしまいそうな、海の様に揺蕩うそれは、それでも尚、私から視線を逸らさず懇願する。



(大丈夫……、私は絶対、貴方を否定しない)



「……だから僕、友達を作らないって決めて、僕が特別を作らなければ、皆仲良くしていてくれるし、僕が、僕が一人でいれば、誰も傷付かなくて済むし、」



ㅤルイ君はつっかえながらも、必死に伝えようと言葉を続ける。



「でも、でも……、真さんと出会って、真さんに友達になりたいって言われた時、僕、どうしたらいいか解らなくて……。駄目だって、頭では理解してても、もっと一緒にいたい、もっと沢山貴女の事を知りたいって……、それと同じくらい、僕の事も知って欲しいと思ってしまって……」



ㅤあまりに熱烈な告白に、僅かに熱が集まっていく感覚が過る。

ㅤしかし触れ合っているルイ君の手から、震えが、怯えが伝わってきて、自分の羞恥心は後回しに気付かないふりをした。



「駄目なのにッ…もっとって思ってしまう…。もう誰も、傷付けたくないのにッ……!」
「それは違う」



ㅤ遮る様な私の言葉に、ルイ君が顔を上げた。

ㅤ私は絡まった結びをほどく様に、ゆっくりと言葉を紡ぐ。



「……だって、誰よりも傷付いてるのは、他でも無いルイ君でしょ?」
「──…え……?」



ㅤルイ君が驚いた様に目を見開くが、私は構わず話を続けた。



「ルイ君は優しいから、皆の期待に応えなきゃって思ったんでしょ? 自分の事で争って欲しくなくて……、自分から皆を、私を、遠ざけようとしてきたんだよね? …でも、それでルイ君が傷付くのは、私悲しいなぁ……」



ㅤ話が終わり、あ、おちる、と思った時にはもう、ルイ君の大きな瞳から涙が溢れていた。

ㅤ服の袖でそれを優しく拭ってあげるが、一度堰を切った様に溢れてしまった物は中々抑制が効かない。



「今まで良く頑張ったね」


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