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幸福な恋におちている

第1章 碧に吸い込まれる


『ずるい! なんで○○ちゃんだけなの?!』
『ほんとに○○ちゃんのことが好きなの?!』
『えっ、えっと……』



ㅤどうして皆がこんなに僕を責め立てるのか、大好きだった彼女が、僕が花を贈ったという些細な出来事を周りに吹き散らす様な真似をしたのか、僕には理解出来なかった。

ㅤしかし間違いなくこの時、現在まで続く確かな傷と、人に対する疑念と不信感を抱く切っ掛けとなったのは、名前も顔の記憶も曖昧な彼女達が関係している事は明白だった。



◇◇◇



「結局その後、答えに困ってる僕を助けてくれた先生が間に入ってくれて、この話はここで終わりました……だけど、その後先生に言われたんです」
「……なんて言われたの?」



ㅤ私は恐る恐る答えを促した。

ㅤルイ君は諦念の滲む表情を覗かせ、その時の事を思い出しながら、当事者にも拘わらず何処か無関心を装った声音で吐露した。



「……先生が言うには、僕は特別らしいです」
「特別……?」
「……『貴方は特別だから、貴方が軽い気持ちで誰か一人を贔屓すると、どうしてあの子だけ……と、面白くないと、みんな思ってしまう』」
「──…は……?」
「『だから、あまり期待させるのは止めた方がいい』……そう言われました」
「なっ……、なんだよそれ!」



ㅤルイ君の前だというのに、思わず声を荒げてしまう。

ㅤルイ君は一瞬驚いた様に私の方を一瞥したが、直ぐに視線を逸らし、何かを押し殺す様に洋服の裾を強く握りながら言葉を絞り出す。



「……僕はそんなつもり毛頭無くて、純粋にその子に喜んで欲しくて花を贈ったんですけど…でも、周りはそうは思ってくれなくて……」



ㅤルイ君はより一層強く服の裾を握ったかと思うと、勢いに任せる様に言葉を吐き出す。



「……確かに昔から家が裕福な事もあって、何かと父に取り入ろうとしてきた大人達が、気に入られようと周りを蹴落としたり、息子である僕に近付いてくる事があって…、でもまさか…そんな事が友達同士でも起こるなんて、僕…微塵も思ってなくて……」



ㅤあまりに強く握り締め圧迫されていた手が白く変色していたので、咄嗟にルイ君の手に自分の手を重ねた。

ㅤルイ君は僅かに驚嘆する動作を見せたが、振り払ったり、特別嫌がる素振りを見せなかったので、私は手の位置をそのままにルイ君を見据える。


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