第1章 碧に吸い込まれる
ㅤ必要とされたくても、それに答える事が出来ない。今、三人がソラを救おうとしているにも関わらず。
(誰にも気づかれず、あぶくの様に消えてしまいたい)
ㅤそんな感情に苛まれ、自ずと足が薔薇園のある方に向かおうと転換する。
──しかし、真さんのとある言葉が、僕の足を止めた。
「ソラ! ルイ君が待ってるよ!」
ㅤもしかしたら、真さんにとっては何の気なしに出た言葉なのかもしれない。
ㅤでも僕にとっては特別な言葉だったのだ。
ㅤまるで存在を認められた様な、言葉では言い表しがたい幸福感に包まれた僕に、一つの感情が芽生えた。
「……真さん」
ㅤ名を呼び、此方を振り向くのを待つ。
ㅤ貴女に、僕を知って欲しいと思った。
ㅤ生意気にも、受け止めて欲しいと思った。
◇◇◇
「子供の頃…と言っても、今もまだ子供なんですけど……」
ㅤルイ君に促されるままに彼の自室に連れてかれ、座り心地の良いソファーに二人、沈む様に腰掛ける。
ㅤゆっくりと吐露していくルイ君の言葉を一つも逃したくなくて、妙に落ち着いた美しい声に耳を傾ける。
「……仲の良かった女の子に花を贈った事があるんです。贈ったと言っても、道の隅に生えてた名前も知らない花を一つ摘んで、それを渡しただけなんですけど……」
ㅤルイ君は自嘲気味に笑んだ後、一呼吸置いてからもう一度話始める。
「そしたらその子、想像以上に喜んでくれて…それを見た僕も余計に嬉しくなって……」
◇◇◇
『ルイくん! お花ありがとう! ホントうれしい!』
『ふふっ、どういたしまして』
『……ねえねえ、お花くれたのってわたしにだけ?』
『え?うん、そうだよ?』
『……へへっ、そっか! ありがとう!』
ㅤ彼女が何故そんな事を聞いてきたのか、その時の僕には分からなくて、そこで一旦この話は終わったんですけど……その後、別の女の子に声を掛けられて…──、
『ねえ、ルイくん! ルイくんって○○ちゃんが好きなの?!』
『えっ?』
『うそっ! ルイくん好きな人いるの?!』
『だれだれ!?』
ㅤその子の一言で、周りに人が集まって来る。
『○○ちゃん、ルイくんにお花もらったっていろんな人に自慢してたよ!』
『じ、自慢……?』