第1章 碧に吸い込まれる
ㅤ梅さんは眉尻を下げてホッと胸を撫で下ろし、土田さんは優しい声でソラを叱った。
(本当に……、)
「良かったぁ~……」
ㅤ漸く溜飲が下がった様な気がして、二人の目の前だというのにソラの白い体に顔をうずめた。
ㅤソラは不満げににゃあ、と一鳴きしたが、今回ばかりは許して欲しい。
ㅤ私の気持ちを察してか、二人も何も言わず見守ってくれていた。
ㅤ暫くそうしていると、何かに気付いた土田さんが、あっ、と声を出したので、私もソラにうずめていた顔を勢い良く上げた。
「……真さん」
ㅤ後方から名を呼ばれ、ゆっくりと振り返る。
「……ルイ君」
◇◇◇
ㅤ真さんと土田さんの二人を途中で見失ってしまった僕は、途中右往左往しながらも、結局土田さんが言っていた裏庭に向かう事にした。
「ソラ!」
ㅤ裏庭に近付くと、ソラを呼ぶ真さんの必死な声が聞こえて、僕は早足でその声の聞こえる場所に向かった。
「ソラ様!」
「真ちゃん! 危ねぇから離れてな! 俺がやっから!」
ㅤその場に着くと、直ぐに状況を察する事が出来た。
ㅤソラが木に登り降りられなくなっていて、真さんが駆け寄ろうとした所を、梅本さんが止めに入る。
「ソラ……、」
ㅤ呟いたか細い声は、誰の耳にも拾われる事は無かった。
ㅤ僕は必死に思考を巡らせる。
ㅤ今なにも考えずにあの場に駆け寄っても、僕には何も出来ないし、何の解決方法も見当たらない。
ㅤ寧ろ今、不用意に近付いてしまったら、ソラを興奮させてしまうかもしれない。
ㅤ三人が必死にソラを落ち着かせようとしている所に、考え無しに突っ込むのは得策ではない。
(……こういう時、僕は本当に何も出来ない)
ㅤ改めて自分の不甲斐なさを痛感する。
ㅤ大切な飼い猫が木から降りられなくなっていているというのに、それを只眺めている事しか出来ないなんて。
──…咄嗟に行動に移せる人が、昔から羨ましかった。
ㅤ誰かの役に立ちたいと思う事は多々あっても、それが本当にその人の為になるのか、お節介なんじゃないかという後ろ向きな思考が邪魔をして、結局は足が止まってしまう。