第1章 碧に吸い込まれる
ㅤ土田さんが脚立を抑えると同時に、梅さんが足を掛けた。流石慣れているだけあって、たった数秒で上り終えた梅さんはソラに向かって手を伸ばす。
ㅤしかし──、
「ちょっ、おい! 逃げるな!」
ㅤ怯えて梅さんから遠ざかろうとするソラが、細い枝先の方へ移動していく。
(どうしよう……このままじゃソラが……、私に、今の私に出来る事……)
「……ッソラ! 大丈夫だから! こっちおいで!」
──今の私には声を掛ける事しか出来ない。
ㅤそう考えた私は、ソラを安心させる様に繰り返し言葉を投げ掛ける。
ㅤそれにつられる様に、土田さんと梅さんの二人もソラ向かって声掛けをする。
「ソラ様! 梅本さんを信じて下さい!」
「安心しろ! ほら、こっち来い!」
ㅤ繰り返し言い続けると、少しずつ気持ちが伝わって落ち着きを取り戻したのか、ソラは移動するのを止めた。
「そうだ、そのまま!」
ㅤ動くのを止め停止したソラだったが、あと一歩梅さんの手に届かない場所に居る。
ㅤ梅さんが脚立から降りて移動させるまでには、もしかするとソラの体力が持たないかもしれない。
ㅤソラがソラ自身の力で一歩踏み出す事の方が確実だ。
(もう少し……何か、ソラが一番好きな、)
──そんなの、一つしか思い当たらない!
「ソラ! ルイ君が待ってるよ!」
ㅤ声高にそう伝えると、ソラが私を見た。
ㅤ数秒間見つめた後、覚悟が決まったのかソラは一歩ずつ梅さんに近付いてくる。
ㅤそして遂に…──、
「……ッよし! 捕まえたぞ!」
ㅤ捕らえられたソラは存外慌てる様子も無く、梅さんの腕の中で大人しくしていた。
ㅤソラを抱えながら梅さんがゆっくりと脚立から降りて来る。降りきった梅さんは胸の前でソラを大事そうに抱え、特に何も言わず、しかし優しそうな目で私の方に寄越した。
ㅤ一瞬目を瞠ったが、恐る恐るソラに手を伸ばしその白い体を抱き締めた。
ㅤ途端に込み上げてきた安堵感に包まれて、気を緩めたら溢れてしまいそうな涙を流さない様に、目を瞑り奥歯を噛み締めた。
「にしても、怪我が無くて良かったなぁ」
「本当に……。ソラ様、もうあんな高い所に登っては駄目ですよ?」