第1章 碧に吸い込まれる
ㅤもう一度、真の居る方向に目を向けた土田は、これから先、二人に訪れる未来が幸せである事をただただ祈った。
◇◇◇
ㅤ駐車場に到着すると、今にも運転席に乗り込もうとする梅さんの姿を発見し大声で呼び止める。
「う、梅さぁん!!! 待ってえぇ!!!」
「……ん? 真ちゃん? どしたどした!」
ㅤ運転席の扉を閉めようとした梅さんは、私の声に振り返り、わざわざ車から降り私たちの元へ駆け寄って来てくれた。
──…説明が遅れたが、この人は梅本さんと言って長年この邸宅に勤めている専属の庭師だ。
ㅤ少々強面で近寄りがたい雰囲気を醸し出しているが、毎朝かかさず私の様な新人にも挨拶をしてくれて、時折お菓子や飲み物などを差し入れに持ってきてくれる。
ㅤ私を本当の孫の様に接し可愛がってくれる、とても情に厚い人で、私もそんな梅さんに懐いていた。
「ゼェッ……ゼェッ……! ゲホッ……つ、土田さ……お、お願ッ……」
「はい。梅本さん、私の方から説明します」
ㅤ日頃の運動不足が祟り会話も儘ならない私の代わりに、土田さんが事の経緯を話す。
ㅤそれを聞いた梅さんはすぐに行動に移してくれた。
「何っ!? そういう事なら任せろ! 真ちゃん、その場所まで案内してくれ!」
「は、はい!」
ㅤ梅さんは軽トラックの荷台から剪定用の脚立を取り出した。
「土田はこれ運ぶの手伝ってくれ!」
「解りました!」
◇◇◇
「こっちです! こっち!」
ㅤソラを見付けた裏庭に梅さんと土田さんを連れてくる。
ㅤ上を見上げると相変わらずソラは木の上で動けないままでいた。
「結構高ぇな……でも、あのくれぇなら……」
ㅤ梅さんがソラの居る木の近くに脚立を置く。
ㅤそれに驚いたのか、ソラは一度にゃあと鳴いた後、身体を動かした。
「ソラ!」
「ソラ様!」
ㅤ一際大きく木が揺れ、私は咄嗟に脚立に手を掛けた。
「真ちゃん! 危ねぇから離れてな! 俺がやっから!」
「あっ……」
ㅤ梅さんが私の肩に手をやり脚立から引き離す。
(……確かに、ここは梅さんに任せた方が)
「土田は脚立抑えといてくれ!」
「はい!」