第1章 碧に吸い込まれる
ㅤ二人には自室に戻れと言われたが、数秒間思案した僕は居ても立っても居られず、二人の後を追い掛ける為に走り出した。
◇◇◇
「久我さん!」
「土田さん? ……て、速っ!」
ㅤ後方から名前を呼ばれ振り返ると、予想よりも近い場所に土田さんがいて一瞬だけ目を瞠る。
ㅤ土田さんは驚くほど綺麗なフォームで私の横に並ぶと、私に合わせて速度を抑えるが、お互い足を止める事無くそのまま話始める。
「学生時代、県代表に選ばれた事があるんです。まあ、昔の話ですが……」
「ですよね! フォームが明らか素人のそれじゃないですもんね!」
「……そんな事より、あんなに慌てて一体何があったんですか?」
ㅤ土田さんが話を戻す。
「それが……」
ㅤ私は事の経緯を説明した。
ㅤ普段からどんな時でも冷静で穏やかな土田さんではあるが、それを聞くと僅かばかり焦りを覗かせる。
「ソラ様が?!」
「はいっ……それで、そういえば梅さん、庭木の剪定に脚立を使ってた事を思い出して」
「成る程、それで梅本さんを探していたのですね……入れ違いになってしまうかもしれません、真っ直ぐ裏の駐車場に向かいましょう」
「はい!」
◇◇◇
ㅤ梅本を探すため真と駐車場に向かっていた土田は、目線の斜め下にある真の旋毛をチラリと一瞥しながら脳内で感服していた。
(彼女がここまで行動に移せる人だったとは、少し驚いたな……)
ㅤどちらかと言えば控え目である真の性格を理解していたつもりだった土田にとって、真の行動力は予想外だった。
──…それともう一つ、土田には意外に思った事がある。
(……彼女がルイ様の前でソラ様の事を話さなかったのは、きっとわざとだろう)
ㅤあの時ソラの事を告げていたら、梅本の居場所についても円滑に話を進められたかもしれないが、ルイは間違いなく恐慌状態に陥っていただろう。
ㅤたとえ無意識だったとしても、真が常日頃からルイの事を真剣に考えていたからこそ起こした結果だと土田は思った。
(ルイ様も彼女の姿が見えないだけで解りやすく落胆していたし……。きっと、この二人なら)