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幸福な恋におちている

第1章 碧に吸い込まれる


ㅤ考え事をしながら廊下を歩く時、庭を眺めるのが最近の癖になっていた私は、白い物が木の上で動いたのが見えた様な気がした。

ㅤ一度は見間違いかと思い、歩くのを止めて再度木の上を眺める。



「う、嘘……」



ㅤしかしそれは見間違い等では無く、確かに見覚えのある白猫で、私はルイ君の見送りを放棄して庭を目指して走り出した。



◇◇◇



「……ソラ!」



ㅤ庭に出て白猫のいる木の根元まで行くと、声高に名を呼んだ。因みにこの名前はルイ君との会話の流れで教えてもらったものだ。



「ソラ! どうしてそんなとこ……あぁっ! 待って! 動いちゃ駄目!」



ㅤソラ自身も混乱しているのか、落ち着き無く木の上で体を動こうとするのを必死に声で牽制する。

ㅤその声でソラは動くのを止めたが、未だ怯えている様子でいつまた動き出すか分からない。



(どうする……木登りなんて生まれてこの方した事無いし…何か、何か上に登れる物……)



ㅤ私は足場になりそうな物はないかと辺りを見渡したが、生憎付近に手頃な物は見当たらず私は落胆の声を洩らした。

ㅤしかし、そこである人物を思い出す。



「ソラ、もう少し踏ん張ってて! すぐ戻ってくるから!」



ㅤ私はソラにそう声を掛けると、その人物を探すために走り出した。



◇◇◇



「お帰りなさいませ、ルイ様。お足元に御注意下さい」
「はい。いつも有難うございます。土田さん」



ㅤ学校から車で家に帰ってきた僕は、後部座席の扉を開けてくれた土田さんにお礼を口にした後、真さんの存在を確認する為に辺りを見渡した。



(今日はまだ来てないのか……)



──真さんの仕事は僕の面倒を見る事。

ㅤ確かにその通りなのだか、空いた時間に使用人の仕事もこなしている真さんが、手を離せなくなるという事は割とよくある事だ。



(……それは分かってる、理解は出来るんだけど……)



ㅤまるで風船が萎んでいくかの様に気分が沈む。

ㅤそれを誰にも悟られたくなくて目線を爪先に合わせたが、その行為があまりに子供っぽかった事を自覚して余計に気落ちしてしまう。



「あっ、ルイ君! 土田さん! お帰りなさい!」
「……!」


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