第4章 第1層~第10層 その3 "再起"
海に近い住宅地の損壊は激しく、少しずつ戦線が海から離れて来ていた
瓦礫の上に立つボスは、やはりちょっとした怪獣を思わせる
今回はそんなボスの方が先手を取ってきた
アバウトに私達を狙う掌―捕まる前に着点を各々予想し、回避
結果、面子が少々散ったが立て直しはきく
その起点はエリー
ボスの正面、まだ生き残った家の屋根に飛び乗り、弓を構える
一撃を与えたのち、複数回の同時攻撃を行う
基本戦術からは外れぬ私達の作戦
出来れば私達の流れを更に引き寄せる事が出来る
だが、これは意外な形で阻止される
エリーの狙う左腕、その掌がエリーを向く
今までなら構わず攻撃で対処出来た、だがそうはいけなかった
何かを察したのかエリーは攻撃動作を止め、別の屋根に向かって跳び跳ねた
その瞬間である
直前まで彼女のいた家が、突如爆音と共に大部分を吹き飛ばされたのである
「…っぁ!!」
ボス近くの私達も左掌からの強烈な風圧に軽く飛ばされる
家の方向にいなかったのが幸いだったのか…すぐに判断出来ない
尤も風圧に押されたエリーは飛ばされながらもチャクラムを放ち、近くの電柱付近に落ちていく
その勢いは人体には急で、実質地面に叩きつけられたエリーは激しく咳き込んでいた
無事ではある、無事ではあるが何だアレは?
再度疑問を感じた所で、ボスがエリーに右掌を向ける
まさか…
「エリー逃げて!!」
危機感を得た私はまた叫んだ
同時に叫ぶしか出来ない自分を恨む
ここからエリーの今の位置までは遠すぎる…脚力にブーストをかけても間に合わない
私は…届かない?
「づおらぁぁぁぁ!!」
しかし、この危機的状況を破ったのはケンタであった
脚力ブーストによるジャンプ、武器スキル発動状態の両手斧と腕力ブーストによる投擲
奇跡的に右腕に当たったそれは、掌の向きをエリーよりも遥か上に変える事に成功した
またも響く爆音は空を鳴らしただけに終わった
「っ!!」
すかさずエリーはチャクラムを別の電柱に引っ掛け、空中を素早く移動する
その電柱に着けば、即座に別の電柱へチャクラムを放つ
端から見れば彼女は凄まじい移動をしているように見えるが、私にその余裕は無かった
ただ、側に行って生きている事を確かめたかった