第33章 第61層~第70層 その1 "誇りと驕り"
トーマ自身、彼の事は記憶の片隅にあった
何せ自身をイライラから解消させたキッカケだからである
「あぁ…お前か。久し振り、が正しいって所か」
言いながらトーマはツクモの事を徐々に思い出していく
バスクからの情報では、PKを行っているプレイヤーだということも
「それで、何の用だ?」
「用などない、偶然だ」
「あぁそうかい。つまりなんだ、またシコシコ人殺しか?」
冗談めかしたトーマの言にツクモは鼻を鳴らした
「卑怯者を粛清したまでだ。生きる価値の無い……誇り無き者を生かしても仕方あるまい」
いつぞやバスクから聞いた通り――それも今思い出した
だが、その理屈にトーマは笑いが込み上げてきた
「プッ、マジかよお前。だとしたらお前馬鹿かよ、っつうか何処のボンボンだよ」
「何を言っている貴様…!」
トーマの言が明らかに勘に触っただろうツクモ
声が僅かに荒ぶり、刀にかけた手に力が入る
「生きる事に卑怯もラッキョウもあるかよ。何も持たずとも、その身一つでやれる全てを行う――それが生きる事だろうが。それがなんだ、ちょっと殺れるようになってその気になっちまったか?」
「っ‼」
瞬間、ツクモは弾けるように突っ込む
同時に刀を抜く――その速度は尋常ではなく、更に正確に首を狙う
「お」
だがトーマは難なくその残撃をトンファーで防いだ
「図星突かれてキレてんのかよ。クハハ、笑えるぜ。つまりお前は…その程度だ!」
言いながらトーマはツクモの腹を蹴り込む
勢いに後退するツクモ
その時点で漸くトーマは構えた
「まぁ、前の礼もあるからな。来い、遊んでやるよ」