第32章 第51層~第60層 その4 "希望への第一歩"
何故そうなのか
彼、トーマ自身にも確証はなかった
ただ、そう思ったのである――バリアなぞ知った事か、と
殴ればそれで終わり
そんな感覚があった
故に――
「邪魔だテメェら‼」
――跳躍し、拳をボスへ突き出す
他のプレイヤーがいる等どうでも良い
むしろバリアを張っている今がチャンスだ
そうして突き放った一撃
だが、途端にボスが消失した
単なる変色による回避ではない
物理的に消失していた
故に突き出した拳のエネルギーも、バリアに阻まれていた他のプレイヤー達の反発するベクトルが無くなり、全てが空振りに終わる
だがこういうものはパターン
それを彼は熟知している
故に次は、自分の後ろ――
振り返った先、見えたものは巨大な足
ボスが自分を踏み潰そうとしている
無論喰らえばひとたまりもない
「ハッ!」
しかしそんなものは読めている
ブーストをかけたサイドステップ回避――そのまま上方へ跳躍した
「裏でもかいたつもりか!」
目指すはボスの顔
妖しく光る顔の正面、縦に大きく光る部分を完全に捉えた瞬間
再びボスが消失した
(またか――)
悪態を吐きたくなる
こうも自分が回避されるとやり甲斐を感じられない
だがそう思う暇はない
またも彼の後方に出現したボスは顔から火の玉を吐き出した
身の丈以上のサイズの火球
防御すれば多少焦げるだけで済む――そう感じた瞬間、彼は叩き落とされる様な衝撃と共に視界が急激に降下した