第31章 第51層~第60層 その3 "白い悪魔"
一瞬不思議そうな顔をする目の前の男
だがすぐに切り替えたのか、今度は私達を狙いに定めたようだ
「あぁ、コイツアレだな。お前みたいに頭おかしい奴だ」
「アンタに言われたくないっての」
口は返しながらも、注意はし続ける
言われなくても分かっている――この男、狂ってる
瞬間――前方から異常な殺気を感じた
男が既に迫っている
「―――‼」
危機感から私は本能的に"引き出し"を開けていた
上方へ跳躍し、回避を選ぶ
同時にジンが男の前で立ちはだかり、両手剣の腹で防御の姿勢を作る
真っ向から剣へ打ち込まれる拳
ブーストがかかっていないにも関わらず、ジンの身体を押すように滑らせた
「コイツ――‼」
スピードから考えてただ逃げるだけでは何にもならない
撤退分の隙が必要――その為にブーストをかけた蹴りを上空から放った
だがまさか――全力にブーストがかかっているのに、あっさりと私の足を掴み、防いだのだ
そのまま力任せに投げられた私は壁に衝突し、多量の空気を口から漏らす
「テメェいるだけじゃなく手伝え‼」
「何でだよ面倒臭ぇ」
「フザけた事言ってんじゃねぇ‼」
今一つな態度のトーマに向かってジンは怒鳴り声を上げながら両手剣を振るう
「お前の方が殺り合っててお似合いだぜ、ジン」
「心外だッ‼」
言いながらジンはどうにか距離を取った
にらみ合いの状況の中、男は笑みを作っていた
「……ダグバ」
「あ?」
微笑みの先から出た言葉――何を指しているか分からず一瞬困惑に包まれる
「ザギバスゲゲル、待ってるよ。もっと強くなってもっと笑顔にしてね」
直後、白い服の男は町への強制移動能力のある結晶アイテムを用い、その場から消えた
場に残ったのは私達だけ、メティスはもういない
あの男への不気味な感覚だけが、私達に残った