第31章 第51層~第60層 その3 "白い悪魔"
正直不安な提案でしかないが、判断材料程度に考えておこうと思い、トーマの伝手とやらを使うことにした
十六層――
こじんまりした空間に無理矢理詰め込んだような街
その中心街から一本外れた所にある三階建ての建物
その一階にある扉をトーマは蹴破るように開いた
「ようバスク、生きてるか」
「生きてるよ、っつうかドアぶっ壊してねぇだろうな」
まるでいつもの事であるかのような返答をしたカウンターの男
バスクと呼ばれた小太りの男――彼が伝手なのだろうか
「んなこたぁどうでも良い。聞きたい事がある」
「俺もだ。お前に聞きたい事がある――お前、一人止めたんだってな」
「何当たり前の事言ってんだ。見りゃ分かるだろ?」
「成る程……苦労してんな、アンタ」
同情の目線が私を捉える
このバスクという男も、どうやら同じ苦労をしてきたようだ
「オイオイ、最終的に俺が喰うんだから苦労も何も――」
後ろからトーマの頭を殴り付けて黙らせる
無駄口を聞くつもりはない
「で、本題なんですけど」
「あぁ、聞きたい事だったな」
軽く痛がるトーマを互いに無視して話を進めた
「"白い悪魔"って知ってる?」
「"白い悪魔"……噂は聞いた事がある」
噂――確証ではなさそうだが、今は良い
何かの取っ掛かりになるかもしれない
「真っ白の上下を着た男。神出鬼没で何処にいるかは分からんが、会わない方が良い。会ったら見つかる前に即逃げろ」
「人殺しなのは分かってるけど――」
「ただの人殺しじゃないとさ。まるで殺しを遊びにしてるようなものらしい。話が通じるか分からんぞ」
話が通じない――
トーマという馬鹿以上に話の通じない奴がいるのだろうか
正直な話、疑問ではある
「まぁちょっと厄介事をどうにかするだけだし、大丈夫とは思う」
「最悪、潰せば良いしな」
「そう簡単にいけば良いがな」
バスクの呟き――そこに妙な引っ掛かりを私は何となく感じていた