第28章 第41層~第50層 その5 "Einsatz"
すぐに光は収まった
視界が元に戻った時、広がる景色は迷宮区のそれであった
周囲に視線を巡らすとエリー、ケンタ、クリス、リアナ、ジン、そしてトーマ――合流出来た面々だ
そして先程までボスと戦っていた他のプレイヤーもまた変わらずにそこにいた
ボス戦は終わった、しかし何だろうかこの不安感は――
「ではプレイヤー諸君、ご苦労であった」
聖槍十三騎士団の六人目――蛇の人物がわざとらしい物言いで口を開く
「待てやコラ」
それに噛みついたのはトーマだった
「今のでクリアだ? ペラこいてんじゃねぇよ……何をしやがった、メルクリウス。いや今は何だ…藤井水蓮か?」
その一言に全ての視線がに注がれる
藤井水蓮――このゲームを作成した元凶たる人物
「あぁ、気付かれてしまったか。如何にも私は確かにそのような名で呼ばれる事もある」
蛇はいともあっさり指摘を認めた
その表情は些か嬉しそうである
「しかし、私は気付けば多くの名で呼ばれてきた。カール・クラフト、メルクリウス、アレッサンドロ・ディ・カリオストロ、ヘルメス・トリスメギストス、サンジェルマン――」
「黙れよウゼェんだよメルクリウス」
粘着な声を遮るトーマ
メルクリウス――知らない筈の名前なのに、それが私の頭を刺激した
「あのような手合いが相手では、卿の偕謔も形無しだなカールよ」
「これは手厳しい。しかし私を見破ったという事実は、既知とは言え称賛に値すると思いますな、獣殿」
ラインハルト、そして蛇――メルクリウスはさも当たり前のように会話をしている
まるで友人同士であるかのように
いや、実際雰囲気だけを見れば友人なのかもしれない
しかし、今自身を藤井水蓮だと認めた人物がいるのだ――周囲には敵意が渦巻いているというのに何故、当たり前のように喋っていられるのか
「ならばどうする? 褒美でも与えるか?」
「然り、これよりの真なる戦いの開戦としても妥当でしょうな」
褒美? 開戦?
何の事だ――それに答えるかのようにメルクリウスが再び口を開いた
「この世界で次の戦場に向かう方法は一つ、最奥にて待ち受ける番人を淘汰しその魂を散華させる他ない。しかし、この第五十層のみより多くの魂を必要とする。故に――」
メルクリウスはそこで一度言葉を切った
もったいつけた勿体つけたような間の後に言葉を紡いだ
「――篩、選別だよ」