第4章 第1層~第10層 その3 "再起"
誰かいるらしい…が変な感じがする
私達に背を向ける巨大ムゥの奥を注視する
そこには一人、プレイヤーがいた
「ぐっ…はぁ…はぁ…」
背の小さい少年
頭には大きなゴーグル、手には身の丈以上のドリルを持っている
一人…という事はテスターだろうか、という考えは次の瞬間には違うという確信に変わっていた
明らかに苦戦している
単純な筈の敵の攻撃すら避ける事はままならず、ダメージを蓄積していく
このままでは…彼は…
「皆―」
部長が口を開いた時、私は既に駆け出していた
脚力にブーストスキルをかけ、短足な巨大ムゥの真横を通り少年の目の前に立つ
ここからは逃げられない
背中には少年がいる
短い両腕を器用に動かし、ファイティングポーズを取る巨大ムゥに対し、私も剣を抜く
「何だよ…邪魔すんな…」
後ろから聞こえる少し高めの声を無視する
この状態で戦おうとする人の話を聞く筋合いは無い
正面―正確には少し上から巨大ムゥのパンチ
ムゥ全般に言えるが、短手短足でよくここまで動けると感心しかける
そんな気分を押さえ付け、剣の腹でパンチを受ける
ブーストスキル無しでも割りと簡単に受け止められる
これなら確かに部長の言の通り、苦労はしないだろう…では何故この少年はこんな苦労をしているのか、という疑問が湧くがそれを気にしている余裕は無しにした方が良いだろう
「はあぁぁぁ!!」
腕にブーストスキルをかけ、跳ね上げた巨大ムゥの腕を武器スキルで斬りつける
一応、そこそこ効いているようだ
怯む巨大ムゥを見て、何となくそう感じた