第28章 第41層~第50層 その5 "Einsatz"
何かが来た――
その疑問への答えは直後の声が与えた
「たあぁぁぁぁっ!!」
声の主は手にした片手槌で私に飛び掛かった敵を叩き潰した
聞き覚えのある少女の声
薄暗い電気に照らされた姿は、見覚えのあるオレンジの髪
「クリス…?」
「うんそうだよ。フィールドで会うのは久し振りだね」
こちらを向く、屈託のない笑顔
その笑顔は、希望を持たせる炎のようであった
「ねぇねぇちょっと急なんだけど、リアナ見てない?」
リアナ――彼女の双子の姉妹
クリスと見た目はほぼ同じな上、数少ない"この世界"で出会った友人だ
見間違う事はないが、少なくともこのボス戦では見ていない
「ごめん、暫く一人だったから…」
「そっか、じゃあ地道に探すしかないよね。まぁ、何となく生きてそうな気がするし、焦らない焦らないってね」
何となくで良いのだろうか
そんなツッコミが頭に浮かぶ
しかし、ツッコミよりも前に気付いた事はクリスの後ろから敵が飛び掛かってきているという事だった
「クリス!!」
思わず叫びが漏れ、手を伸ばす
だがクリスは変わらぬ笑顔のまま答えた
「大丈夫、一人で来た訳じゃないから」
直後、クリスの後ろにいた敵が真っ二つに裂けた
大きな刃――いや、斧だ
そしてそれを手にした少年
「ギルド"オリジナルセブン"所属! ディアボロ・オブ・マンデー、山崎賢太参上!!」
ケンタ――私が落下する前に穴へ落ちたのに……生きていた
その事実もまた希望であった
「まぁ、再会を喜ぶのは後にしようぜ」
暗闇に対峙するケンタはそのまま筒のような物を取り出した
彼がそれを回すと筒から光と煙が溢れ出してきた
発煙筒だ
急激な光に闇が少し消える
そして消えた闇の中から、敵が現れた
正確には暗闇の中にいたものが露になった、だろう
しかし問題はその数であった
ざっと見て――数十と言った所だろう
「ちょっと辛いよねぇ」
「あぁ全くだ。だからこういう時の名言ってのを教えてやる」
「それって?」
クリスに問われたケンタはわざとらしい一呼吸を置いた
そして足に力を込め――
「三十六計逃げるにしかずってな!! 逃げるぞ!!」
――敵とは反対向きに走り始めた