第28章 第41層~第50層 その5 "Einsatz"
どれくらい歩いたろうか
それでも駅は見えない――いや、ある意味当然だろう
電車は人間よりも遥かに速く動いている
それで一駅三分とか五分とかなのだから、人間のスピードに換算すればどうなるか――長く感じるのも理解出来る
他の皆も見つからない
このまま誰にも会えずに地上に出るのでは……誰にも会えずにこの戦いを終えてしまうのではないか
希望を隠すように、悪い考えが浮かんだ
視線が僅かに下を向く
足元は暗いまま――そんな状況に変化が起きた
音だ
明らかに私の足音とは違うタイミングの音
足を止めて、耳をすます
土を踏み、石を転がす音――だが、人のものより素早く、軽い
(まさか――)
即座に目を凝らし、同時に音から離れるように跳躍する
視線の先、薄暗く光る電気に照らされた姿は虫のようなものであった
敵――まさにそうであった
しかも一体ではない、複数だ
戦わなくては――
剣を抜き、構える
暗闇でも基本は同じ――敵の動きよりも早く、そして速く動いて斬る
そう、それは分かっている
しかし今は何かが違った
剣を持つ手が、震えている
「なん、で……」
自覚した瞬間から更にハッキリ震え出した
力を込められない
それを知ってから知らずか、敵が飛びかかる
「うわっ!!」
暗がりから急に現れたように飛び掛かってきた故、反射的に剣の腹に当ててしまった
何事もなかったかのように跳ね返り、距離を取る敵
しかし、私の剣はその一撃――ただの一撃でヒビが入ってしまった
ジリジリと少しずつ後退しながら剣を構える
私は予備の武器等持っていない
しいて言うなら、以前ユリが所持していた短剣のみである
武器であるが、大分前の物だ―――通用するとは思えない
つまり今の私は、次に一撃でも当てれば折れてしまいそうな剣を使うしかなかったのだ
(どうすれば…どうすれば抜けられる…?)
武器は折れかけ、手は今まで程の力は入らず、周囲は暗闇
危険が幾重にも重ね塗りされた状況――追い詰められていると言っていいだろう
だが答えは出なかった
代わりに答えを与えるとばかりに敵は再び飛び掛かる
震える手で剣を振るうか――その覚悟も決まらないまま対峙した
だが飛び掛かった敵は、空中で何かをぶつけられたかのようにベクトルを変えて吹き飛ばされた