第28章 第41層~第50層 その5 "Einsatz"
ボスはいきなり暴れまわるように動き出した
前足、そして尻尾が独立して動くように周囲を薙ぎ払い、叩く
それだけで地面は大きく抉れ、震動を発生させた
ほぼ中央を取られた上に、見境なしに暴れまわられてしまっている
まるで"戦い"という状況に持ち込む事が出来ない
幸いと言うべきか、私達はそれ程散り散りにならずに済んだ
震動による爆音が響く中、シンジ先輩の声が聞こえた
叫ぶような伝達
「いるなお前ら! 一旦退避、有利な状況に持ち込――」
それは不意に掻き消された
それまでシンジ先輩がいた場所にボスが降り立った
派手に降り立った故に、巻き上がる埃と爆音
それきりシンジ先輩の声は聞こえなかった
「ふ…ざけんなぁ!!」
これ以上はさせるまいとケンタが振り返る
だが何をする前に彼は右手から引っ張られた
エリーが無理矢理チャクラムで引っ張ったのだ
「今は無理」
手を繋ぎっぱなしの私を含め、二人分を引っ張りながらエリーは走る
今この時もボスは逃げる私達プレイヤー陣を猛スピードで追っていた
車が爆ぜ、ボスが動く度に地面に穴が開く
何処までも追ってきそうな勢いを背に走り続ける
不意に、後ろの気配が軌跡を変えた
視線を僅かに向けた先、ボスはビルの壁面を伝っていた
倒壊するビル群――それにも関わらず、ボスは私達の横から周りいとも容易く正面を取ってしまった
「――っ!」
ボスが地面に降り立った瞬間、エリーは大きくチャクラムを振ってケンタを投げ飛ばす
そして不意に、繋いだ手を離した
「エリ――おごっ!」
何かと思った瞬間、エリーが私の腹を蹴っていた
ブーストもかかっており、私は勢い良く地面を転がった
転がっている最中から再び爆音が響く
咳き込みながら視線を向けた先、そこには巨大な穴があり―――そこにエリーの姿はなかった