第27章 第41層~第50層 その4 "転換点"
"彼女"の叫びはその戦場に響き渡った
死への悲しみ――誰もがその叫びだと感じ取った
だが、現実はそうではなかった
「リリィ!?」
唯一それを事前に察知したエリーでさえ、それを感じ取った時は全てが遅かった
彼女の叫びは人の叫びたではなく、獣の叫びとなっていた
彼女のもう一つの側面である獣の本能が、今まさに彼女を支配し、塗り潰したのである
「おおぉぉぉぉぉ!!」
彼女は自身の本能と激情に身を任せ、一気に跳躍
ボスの胴体を抉るように殴り付けた
痛みに戦慄くボス――彼女はボスを蹴って板に戻り、片足が欠けているにも関わらずもう一度加速し接近した
これに対してボスの対応も早かった
多量の杭と多量の爆弾――彼女一人に対して過剰とも言える迎撃である
しかし、彼女は構わぬとばかりに加速――出現よりも速く接近していた
尤も、今の彼女にダメージという概念は無い
"多少"防具が欠けて肌を晒そうと、"多少"身体が欠けて行動を阻害されようと、敵である全てを破壊するか、彼女が彼女自身を制御する以外に止まる術は存在しない
「があ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!」
ボスに再び取り付いた彼女は、そのままボスをひたすらに殴り続けた
誰にも止めようのない破壊の権化
下手に踏み込めば自らの首が危険だと誰もが感じる戦いに突入するかと思われた
だが、その予想は徐々に外れていく事となる
変わらず殴り続けているにも関わらず、ボスの動きが活性化している
端的に、ダメージが減っているのだ
いち早くエリーはこの事態に気付いた――これは今までと違うと
行き場の無い悲しみと憤りをボスに対してぶつけているだけなのだ――まるで八つ当たりであるかのように
故に、今の彼女は獣の本能が出ていながら、"その状態"に入っていない
"今の"彼女は、まさしく泣き喚く少女でしかなかったのだ