第26章 第41層~第50層 その3 "転換点への道標"
光が瞳に射し込み、トーマは僅かに怯む
その瞬間――極大の危機感を彼は感じた
(やべ…俺……)
その危機感は真っ直ぐにあったベクトルを無理矢理左へ動かした
直後、縦の一閃が走り、只でさえ消えていた右腕が肩口から消える羽目となった
勢いのまま転がり、距離を取るトーマ
もう一度立ち上がった彼は、不思議な感覚に満ちていた
それは疑問――自分は今の瞬間に何を感じたか、であった
今の一閃、回避が出来なければ間違いなく身体そのものが真っ二つになっていただろう
結果として回避出来たものの、問題はそこではない
彼は危機感を感じた瞬間こう思った――自分は死ぬ、と
しかし同時に沸き上がる感情
危機感を抜けた今は感じない、あの一瞬に詰まった感覚
それは――
「そうか……楽しいな…」
――楽しい、満たされる
そんな感情であった
それを自覚したトーマは自身の苛立ちが何なのか、霧が晴れるようにそれを理解した
「そうか…そうかそうか。あの空間は死んでた、皆死んでた。だからつまんねぇんだ、死んでる奴を相手にしても命のやり取りにならねぇからつまんねぇって訳だ」
それは、彼の彼故の彼にしか分からない理屈
「その点何だ、お前は俺を殺すってか?」
その事実に彼は間違いなく高揚していた
自身の命の危機を以て、彼は彼自身の悦楽を見出だしていた
「面白ぇ…面白ぇじゃねぇか! クハハハハ…アハハハハハハハ!!」
成される笑いはその場に、高らかに響き渡った