第26章 第41層~第50層 その3 "転換点への道標"
「で、この後はどうするんだ?」
扉の修繕を終えたバスクは炒飯が盛られていた皿を回収した
床にも米が散らかすように飛んでいる
だがトーマはそれには頓着していない
欠伸をし、既に寝る準備を整えている彼はバスクの質問に答えようとしない
それどころか、数秒後には完全に眠りについてしまった
「まぁ、飯くらいなら何とかしてやるよ」
そう言ってバスクは静かに扉を閉める
いつものこと――最早慣れた日常の一部であった
翌日――
トーマは何も言わずにバスクの店から出ていった
本人からしてみればただの都合の良い寝床に過ぎない
故にどう使うかは本人の裁量だし、それがあの場所に関するいつも通りだ
ただ、今回ばかりは何かが違った
つまらない、イライラする――そんな感情が消えない
何故――そもそもの原因は分かっている、先日行った四十五層ボス戦だ
実際の戦闘が始まる前に噴射された霧のようなもの――アレのお陰で、いつぞやのように世界観レベルでの洗脳状態が起きたのだ
トーマ本人と、彼が獲物と認知している白い少女――リリィ、そして彼女の仲間の一人が"いつも通り"だったのがその証明だ
おかしい事が普通の事となる空間
その中で"いつも通り"を保っていられる人材は狂っている
(んな事ぁ、今はどうでも良い)
そう考えたトーマは余計な思考を振り払う
今重要な事はそもそもの原因ではなく、今の今までイライラが解消されない事だ
「あぁ…クソッタレ…」
纏まらない、答えが見えない
そんな状態に更にイライラを募らせるトーマの視界に大きな影が写った