第26章 第41層~第50層 その3 "転換点への道標"
「っつうかよ、もう知った場所なんだから一々ドアぶっ壊して相手を確かめようとすんな」
バスクはそう言いながら、扉に開いた拳大の穴を塞ごうと金槌を振るっていた
その脇―廊下に座るトーマは手掴みでバスクの作った炒飯を漁るように食していて答えない
「大体何の為に窓開けてやったと思ってやがる。お前に色々ぶっ壊されちゃ堪んねぇからだよ」
文句を言いながら扉を修復するバスク
知ったことかと言いたげに炒飯を貪るトーマ
この二人の関係は奇妙とも言えた
バスク――彼はいたって普通のプレイヤーだった
この世界に囚われてから一時はクリアを目指し邁進しようとした
しかし、一度だけ参加したボス戦で彼は戦いに対して激しく恐怖した
普段より一層深まる死の感覚、逃げ場のないデスマッチ
死ぬ事をより一層意識した彼は戦いから遠ざかる選択をし、代わりに商売を始めた
物々交換、情報提供、喫茶――出来る事は大体やった
トーマと出会ったのはそれから暫く経ってからである
誤って閉め忘れた窓
そこからトーマが入り込んだのである
彼を不審者として捕らえようとしたものの、バスクは逆に彼に打ちのめされてしまったのである
街中にいながら死の恐怖に近い感覚を得たバスクは食事と寝床の提供という形で手を打った
それから度々トーマはこの場所に来るようになった
大概は寝るか食事をたかるかのどちらかである
始めはげんなりしていたバスクであったが、次第に慣れを覚え、トーマを時たま訪れる友人のように考えていた
尤も、当のトーマはバスクをどのように捉えているかは分からないのだが