第25章 第41層~第50層 その2 "Love"
今自分が何処にいるのか
彼女には分からなかった
分かる事は、光が闇のようにちらつき、闇が光のように生まれて消える事
そして自分以外の誰かが、自分に"乗っている"事
「あ…う…」
掠れた声は苦悶に満ちている
彼女は今、自分の腰から下が粘土の如く交わり、別の物体となっている感覚を得ている
視覚も狂っている
光と闇の色をした音楽記号が飛び跳ねながら、あり得る筈のない視界を映している
塵のように見える人、人、人――
危険な虫のように纏わりつく
彼女に戦う意思は無い、しかし"外にある身体"は人々を滅する為に攻撃を続ける
彼女はままならぬ視覚と聴覚を使って彼を探す
この世界で漸く出会えた彼女を知る人
現実からの知り合い―故に大切な人
(何処……何処、なの…)
前方にいる人を覚束無い視覚で見渡し、見渡し――
(あ……)
―彼の仲間を見付けた
彼を慕う彼の同期や後輩達
いずれも彼女の外の身体と向き合い刃を向けている
だが、その中に彼の姿はなかった
(どうして…何処に……)
その視界に映るものは、彼女にとってあまりに予想外で、不安を更に掻き立てていく
「ア、ダ、チ、クン……ア、ダチ…クン……アダチクン……」
故に紡がれる彼女の呼び声
しかしそれは今、誰にも通じてはいなかった