第25章 第41層~第50層 その2 "Love"
少しずつ近付く姿
それは徐々に明らかになった
人の女性体と見える体躯だが、腕が異常に長く、腰から下が存在しない
フードを被った顔は鼻より下―口しか見えない
これが今回の敵―そう思い、誰もが構えたと同時に敵が歌った
いや、歌というより音を口から発したと言って良い
四十四層に現れた敵も音を発していたが、それとは違って頭に響かない
だから攻めに行く―そうしようと力を込めた瞬間、制止するかのように金属音が下から響いた
音のした方に視線を向けると、そこには剣が落ちていた
星の意匠が入った片手剣―セレナさんが使っているものだ
「え…何か、言ってる…?」
その表情は驚愕と不安に満ちていた
「瀬川、どうした?」
部長もセレナさんの異常に気付いたのか、声をかけるが彼女からの返答はない
「やだ…止めて……ぁ…う、ぁぁぁ―」
直後、セレナさんの姿が消えた
何かに移動させられたかのような消え方で、その場には取り落とした彼女の片手剣すら残らなかった
「瀬川―!」
部長が叫んだ時には既にそこにはいなかった
同時にボスがまた音を発する
漸く現れるHPバー
記された名は"Vibrato"――ヴィブラート、音楽で使われる記号だ
「瀬川! 瀬川! どうなってんだ!?」
突然の事態に混乱した
どうしてセレナさんは消えた?
セレナさんは何処へ消えた?
だがその答えが現れる前にボスは無情に攻撃を仕掛けてきた
服の下から急激に生えた巨大な棘
足の代わりともなるそれが上空から襲い来る
地を抉る一撃―幸いにも全員回避が出来た
だが、今だセレナさんの謎が残っている
「しょうがねぇ、キョウヤ! テメェはアイツ探せ!」
「シンジ!?」
「こちとらは人数いるし、問題ねぇ。行け!!」
シンジ先輩の判断―部長は一瞬悩んだようだが、すぐに頷いた
「済まない」
「あ、あの―」
部長が駆け出そうとした時、私は思わず口を開いていた
「私も、行きます。一人だと…危ないかもしれないし…」
口をついて出てきた言葉
半分勢いで出たものであったが、シンジ先輩は軽く頭を掻いてから口を開いた
「ったくしょうがねぇ、分かったからお前も行け!」
「は、はい!」
そうして私も部長に続くこととなった