第24章 第41層~第50層 その1 "Survive"
「まぁただ座ってんのもなんだ。飯でも食って回復してからでも遅くねぇよ」
そう言ってトンファー男――トーマは地面を掘り出した
何をするつもりだろうか
そう怪訝に捉える私の前で奴は、迷い無く掘り出した土を口にした
「……何してるの?」
驚愕を越えて引いたと言っても良い
何故食事と言って土を食すのか
理解が追い付かない―故に、疑問は口を吐いて出て来た
「何ってお前、食ってんだよ」
「土でしょ?」
「何も無くてもよ、これだけは大体何処にでもある。量に困らねぇし、意外に美味いぜ」
有り得ない
有り得ない有り得ない
現代日本で土を積極的に食し、挙げ句美味と言う人物を私は知らないし、誰も知らないだろう
「何をどうしたら……そうなるの…」
「簡単な話だ。そう思うだけの経験をしたって訳よ」
それから奴は「いつだったか…」などとボヤいて勝手に話を始めた
「今よりもガキの頃だ。山で流されてよ、気付いたら一人だった。最初の二、三時間は泣き喚いたもんだが、それ以上に腹が減ってくる。それが極限に達した時、初めて食ったぜ。その辺にあった土とか葉っぱとかをな。そんな生活が何日か続くと当たり前になってきて、自分がギリギリにあるのが楽しくなってきた」
それは何処かにありそうな話
ただ、少し違うのはこの男がどのような感覚を得たかだ
「その内もっとギリギリな所にいるのが欲しくなって、狩りに出た。自分の身一つで相手と命のやり取り……最高だ。それで飯にありつけりゃ良いが、失敗すれば土とかだ。それも最高だった」
子供がいるには異常な環境
そこで正常を保つには――そう、としか思えない
「熊一匹がこれまでの一番だ。だけどよ、叔父貴の所に引き取られてからはどうにもそういうのがねぇ。だから俺はこの世界に入ったって訳だ」
これが当たり前だったろうという口調
それもあいまって、私はすぐに口を開けなかった