第23章 第31層~第40層 その5 "再会"
それから数十分粘ったものの、ケンタは結局一匹も釣り上げる事が出来ず、またも手ぶらで帰る事となっていた
オリジナルセブンの面々には最早"いつもの事"であったが、ケンタ本人としてはせめて毎度数匹は釣りたい所であった
単純に趣味の類いにはなるし、現状からすれば食費が僅かに浮く
故にどうにかしたい所であったが、釣れないという現状を改めて目の当たりにすると、溜め息が漏れる
(そういや、最後に釣れたのって――)
そうして彼は記憶を掘り起こす
最後に魚が釣れた記憶―それは巨大な船の上
(―って十層ボス戦じゃねぇか。あれから大分経ってるよな……しかも、あの時って裏ルールとやらを満たした結果だから……結局自力で釣ってねぇ!?)
所謂、気付きたくなかった事実に気付いてしまい、肩を落とす
だが同時に彼にある考えが浮かんでいた
(いや待てよ……まだ0匹なんだろ? 1匹じゃないって事は、焦んなくて良い―次を釣るって事に追われなくていいんだな)
自己解決したのかケンタは、落とした肩を上げて歩き出す
都合が良いとも言えるポジティブさ
彼の周囲の人間が、秘かに彼を"良い意味の馬鹿"と認識している理由の一端でもあった
しかしここは一応天下の往来である
日はまだ高く、人通りもそれなりである
そんな中、何かを考えながら歩いているのだ
当然、ある程度不注意という状況になる
歩いていたケンタと対向者の肩同士がぶつかった
「―――」
「っと…スンマセ――」
謝ろうとしたケンタの言葉が止まった
ぶつかった相手の顔に見覚えがあったからだ
いや、ケンタからしてみれば見覚えでは済まない―しっかりと記憶している
ある時期から全く成長していないような輪郭
あらゆる物事に通じていそうな、深い瞳
「お前……アンナか?」
「まさか…貴方、ケンタ―山崎賢太?」
彼の記憶は間違っていなかった
彼女―アンナがそこにいたのである
「マジかよぉぉぉぉぉ!!」
直後、ケンタの驚愕の叫びが往来に響き渡った