第20章 第31層~第40層 その2 "彼と彼女の一日"
第一層の街並みは変わっていない
それは当然ゲームなのだし、街並みが変わるような大規模なアップデートはしていないから変わる筈がない
しかし、ユウとミヤコ―二人の記憶にある姿とは僅かに異なっていた
街にいる人の数が少なかったのである
これもまた当然だろう
このゲームが真に始まった時は第一層しかなかった
それが今や三十層を越える位置にまで来ている
自分達を含め、多くのプレイヤーが先へ進む事を決断した故、自然とこの街からは離れていくだろう
ただ、全く人がいない訳ではない
ここに居続ける事を運命付けられたNPCの他、外に出ない事を選択したプレイヤーがいる
彼等を責めるつもりなど二人にはない
自分が一人しか居なかった場合、そちらの道を選んでいた可能性は十分にあるからだ
二人は互いに、互いと仲間がいたからこそ戦うことを選択出来たと言って良い
「ねぇ」
不意に彼女が口を開く
彼は視線でしか反応していないが、彼女にはそれでも十分に通ずる
「もし私が、あの時ここに残る方を選んでたら…どうしてた?」
「さぁね。」
可能性、もしも、if―過ぎ去った選択の事など余り意味は無い
故に彼はすぐに返答をした
「ただ、僕らはあの面子だからここまで生き残ってきた。誰か一人でもいなければ僕が死んでいたかもしれないし、誰かが死んでいたかもしれない。だから、君がこの場で戦う事を選んだのは間違いなく英断だったよ」
「そんなに格好いいものじゃないけどね。あんな中で一人になるのが嫌なだけだったし」
高尚さの欠片も無い俗な理由
奇しくも彼女の友人も、切っ掛けはそんなものなのだが
「一つだけ言っておくよ。僕が君を見捨てる事は有り得ない」
不意に彼から投げ掛けられた言葉
考えてみれば彼らしい一言
しかし彼女にとっては、何の準備もしていない不意の一撃に等しく―
「急に言うことでもないでしょうに…決め台詞かっちゅーの」
―と、僅かに顔が赤らむのを感じながら呟くように言葉を漏らすしか出来なかった