第20章 第31層~第40層 その2 "彼と彼女の一日"
彼―ユウは彼女―ミヤコを昔から知っている
所謂昔馴染みという奴だ
だから彼女が何をしようと大概許容は出来る
尤も、キチンと理由を聞かないと気が済まないのは彼の性質故だろう
「で、君は何も説明せずに僕をここまで引っ張り出した訳だけど、何のつもりかな?」
彼の言う通り、何の説明も提案も受けずに彼女に連れ出されたのだ
辿り着いた場所は第一層、始まりの街
既に三十層近くまで進んでいる彼等にとって、今更来るような所でもない筈なのだ
「ん~何ていうか、振り返り?ほら、もう三分の一くらいまで進んだ訳だし、ここらでもう一回原点から見直してみよう…みたいな?」
彼女の言いたい事
それはこれからのモチベーションの為にも、原点を振り返ろうというもの
やる事は悪くない、しかし彼はそれ以上の突っ込み所に溜め息を吐く
「普通そういうのは四分の一とか半分とか、最後の最後とかにやるものだろうに。何でこう中途半端なタイミング―痛っ」
突っ込みの体を成した主張は彼女のチョップにより中断させられる
「良いの別に。今が丁度良いって思ったんだから。思い立ったが吉日って言うでしょ?」
「君の思い立ちは少し急な場合が多いんだけどな…」
「あ゙ん?」
文句があるのかと言いたげに彼女は彼の胸ぐらを掴んでくる
一見一触即発だが彼と彼女は、これまでの人生でこんな事を何度も繰り返してきた
そして、二人の関係はこの程度では崩れない
互いが互いを理解しているが故に、この程度の事は何でもない―むしろ、様式美に近いものだ
「分かった分かった。で、具体的にこれから何処へ行くつもりなんだい?」
だから彼はそれ程気兼ねはしない
純粋に思った事を言い合える
そしてそれは彼女も同じ
あっさりと胸ぐらから手を離して、少し考える
「ん~…その場のノリ?」
「ノープランかよ…」
せめて少しは考えてきて欲しかった、という届かぬ願いは溜め息と共に空に消えた
しかしその裏で"いつものこと"だとか"それこそが彼女"というものも頭に浮かんでいた
だから彼も、彼女の気の済むように付き合う事について異論はなかった