第19章 第31層~第40層 その1 "Chase"
笛の音に操られたプレイヤーはケンタ達に一斉に襲い掛かった
動きは本来の人間より明らかに鈍重
しかし、相手が人であるという以上、ケンタ達は武器を払うか防御しか出来なかった
故に、相変わらず演奏をしたままのソラに手を出せなかった
あの演奏をどうにかすれば状況は好転する
しかし、その策が浮かばなかった
(どうするよ…どうするよ…?)
ジリ貧必至の戦いにケンタの焦りが募る
それが隙を生んだ
首に何かが巻き付く感覚―直後に正面に引っ張られ身体を倒される
悪態を吐きたいのを抑えて彼は見知った仲間を見つめる
「エリー…」
例え操られていようと、その才は健在
むしろケンタ自身が凡庸に過ぎると言って良いかもしれない
そのような隙だった
そして彼女がいるという事は近くには彼等がいる
襲い来るは曲刀と片手斧―シンジとユウである
ケンタは自身の両手斧で防ぎながら虚ろな目の彼等をしっかりと見据えた
「仲間で死ぬとか…勘弁ッスよぉ!!」
叫ぶような呼び掛け、同時に押し込むように二人を退かす
「死なせねぇ、殺させねぇ、オレも死なねぇ!!」
言いながら、無理矢理に首に巻き付いていたチャクラムの糸を引きちぎる
これで一応自由に動ける、そう思ったのもつかの間―今度は短剣と槍が襲い来る
ミヤコ、キョウヤ―どちらもケンタにとっては強力なプレイヤーだ
彼の右から来たのは槍、抱え込むように止める
直後、反対から顔目掛けて短剣の刃が突き出される
顔を逸らし白刃を回避、片手で持った両手斧を離しミヤコの手首を掴む
膠着―クリスもリアナも自分の目の前で手一杯だ
だから自分で切り抜けなればならない
しかし彼にはまだ、それが出来るだけの実力が無い
二人までならともかく三人以上は不可能
だから三人目―エリーが放った矢を避けられる訳はなかった
しまったたと彼がと思った時、彼と矢の間に人影が割り込んだ
白過ぎると言える人物は矢をキャッチ、それを捨てると共に口を開いた
「ごめん、ちょっと遅れた」
影響を受けていない四人目―リリィがその場に現れたのである