第18章 第21層~第30層 その5 "Hero"
雨の様に敵が放った槍が降り注ぐも、奴は一歩も動かない
何かをしているという訳でもない
単純に当たっていないのだ
一頻り降った直後、ボスはトンファー男を潰そうと前足を上げた
通常ならば回避すべき状態―だが奴の周りには地面に突き刺さった無数の槍があり、それが動きを阻害―
「ハッ―」
―にはならなかった
奴はまるで問題なしと言わんばかりに、地面を殴る
その衝撃か、奴の周りにある槍の悉くが砕け散った
だが忘れてはならない
ボスは奴を潰そうとしており、今もまさにその為の前足が向かっており既に回避は不可能
しかし、あの男はまだ笑みを残していた
ブーストもかけず、左手のトンファーでボスの足を殴り付けたのである
本来ならば有り得ない愚行
しかし、殴られたボスは逆に吹き飛び、体勢を崩した
「何だよ何だよ、やる気あんのかよ?お前つまんねぇな…」
順調な状況
だがそれを奴はつまらないと評した
そして奴は唐突に跳躍―スタジアムの観客席に飛び移った
「こんなん相手しても萎えるだけだし、今回はお前らの取り分にしてやる。じゃ、俺は寝るわ」
「………………は?」
私達が唖然とする中、奴は背もたれの無い椅子に寝転がり、そのまま動かなくなった
「アイツマジかよ!!」
何処からかそんな声が上がるが、向こうはお構い無し―呼吸以外微動だにしない
そしてもう一つ、お構い無しの者―ボスがこちらへ突っ込んできた
寸での所で回避するものの、直後に槍が降ってくる
背中から射出される瞬間を見ると同時に散らばる
それはその瞬間は良かったかもしれないが、その後には全く良くはなかった
散らばるという事はより小さな塊―個人になるという事だ
先はあの男が自身のトンファーで殴ったとは言え、私達が同じステータスな訳はない
故に、ボスと対峙したプレイヤーの悉くが宙を舞った
完全な混乱状態
私達七人は何とか合流したが、それでどうにかなる訳ではない
どうすればいい、と焦りが支配する中―
「……任せろ」
何処からか、そんなしゃがれた声が聞こえた