第16章 第21層~第30層 その3 "Alien"
反撃に転じた私達は一気に攻め込んでいた
ミヤと左右に並び、短剣を振るう
ミヤは私よりも小さい動作で突きを放ち続けている
「ふざけんな…何で死なないんだぁ!!」
叫びと共に素早くなるユリの攻撃
だが、落ち着いて―刃と腕を見て防ぎ、それを反撃に転ずる
「クソッ!死ねよ死ね!!」
ユリの攻撃は増大し続ける狂気と共に更に素早くなる
だが、徐々に大振りになっていて見切る事は先程よりも出来ていた
その見切り以上に、私の中に彼女への思う所が生まれていた
今も目の前にいる私達に死ねと呪詛を吐きながら、狂気のままに短剣を振るい続けるユリ
明らかに普通ではない―しかし同時に、彼女にはこうなるに値する何らかの事情があったのでは…と感じ始めていた
真に狂った奴―自分を含めてその例を知っているからこそ、私はそう感じていた
だが、ここは戦場
余計な気は状況の悪化を招く
隙を突いた筈の私の振り下ろしがユリの刃に止められる
直後、援護に入ったミヤの突き―だがこれも、意外な形で止められる
ユリはミヤの短剣を素手で捕らえていた
当然ダメージはあるのだが、彼女は気にも止めていない
あるのは彼女の肥大した狂気だ
「おぉぉぉぉぉ!!」
ユリはそのままミヤの腹を蹴り込む
刃を止められた事への一瞬の驚きが、ミヤに対策をさせなかった
勢いを全く殺せなかったミヤは無造作に飛び、壁にぶつかる
「ミヤ!」
相手が目の前にいるにも拘わらず、私はミヤを心配してしまった
故にこれが決定的な隙となる
短剣を弾かれ、負傷した右手を引っ張られる
そのまま私はユリの背中を転がるように、地面に落ちた
衝撃で僅かに呼吸が乱れる
その間にユリは私の顔目掛け、短剣を振り下ろした
寸での所でユリの短剣を止めるも、先程とは明らかに加わる力が増していた
「お前だ…お前だお前だ…白い奴ゥ!!」
そう言いながら更に押し込もうとするユリ
だが、彼女の放った言は私にこの場にそぐわない苛立ちを生み出した
「"白い奴"なんか…私の名前じゃない!!」
無理矢理にユリの短剣を押し返す
負傷した右手に走る痛みを無視して、土を掴んで彼女の顔へ投げた
「がっ―」
一瞬怯んだユリを引き剥がして距離を取る
壁にぶつけられたミヤも私に並ぶ
「ふ…ざけてえぇぇぇ!!」
ユリは憎むように、呪うように吼えた