第16章 第21層~第30層 その3 "Alien"
「がっ…ク、ソッ」
初めての激痛にケンタは顔を歪めた
左腕の肘から先を斬り落とされた
だがそれを嘆く暇はない
ジュリは薙刀を更に素早く振るい、ケンタの肉体を削ぎ落としにかかる
身体を反らし、回避をするが完全ではない
少しずつ皮膚を斬られ、肉を抉られ、HPを減らしていく
ケンタの武器である両手斧は彼のかなり後ろに落ちている
「まださまださまださぁ!!抵抗も見せな!!」
ジュリは愉悦に顔を歪ませながら、更にケンタを追い詰める
単純に、現状は絶体絶命だった
左腕を失ったに等しいが故、武器を振るおうにも上手くいかないだろうし、そも拾いに行けない
ジュリの攻撃を最小限のダメージに食い止めるのが精一杯で反撃にも転ずる事が出来ない
そして今もまた振り上げられた薙刀を回避した直後に放たれた蹴りが彼の腹に直撃―軽く吹き飛び、無様に壁にぶつかり倒れた
どうすれば倒せるのか―俯せのまま、ケンタはそれだけを考えていた
だが現状彼はジュリに対して有効打を与えていない
やはり、力量差がありすぎるのだ
そしてそれをひっくり返せる才は彼には無い
経験は当然浅く、獣染みた爆発力も彼は持っていない
誰かと完全に息を合わせる事も出来なければ、状況を俯瞰したり等という真似も出来ない
ただ彼は、たった一つだけ持ち合わせているものがある
それは執念であった
気に入らない、負けたくない―ただそれだけを胸にして、ゆらりと立ち上がる
結局どうすれば倒せるか等という考えは問題提起だけされて、答えもなく消えていく
(あぁ、それで充分だろ…こんな奴には負けらんねぇ…)
意地だけで身体を支える
だが、そこから先の行動をするには身体を支える時の何倍もの意地が必要だった
そんな事は関係無しにジュリは攻め続ける
真横―ケンタの左から振るわれた薙刀
ここに来て漸く軌跡を予測する力が身に付いたようで、半分倒れるように身体を反らす
そして、残った右手で拳を作る
武器も、逃げ場もない男の決死の一撃
「おぉぉぉぉぉ!!」
その一撃がジュリの顔面目掛けて放たれた