第16章 第21層~第30層 その3 "Alien"
最初の鍔迫り合い
それ以来ケンタは苦境に立たされていた
上からだろうと下からだろうと、右だろうと左だろうと、どこから斧を振るっても目の前の敵―ジュリに回避されるか防御され、自分が攻撃を受けるかという結果が待っていた
非常に簡単な理由がそこにあった
それは単純な力量差である
実の所ケンタは一対一の状況になった事はない
よって普段はある筈の援護は当然無い
また、一人の時の戦い方も全く見出だしてはいない
しかしジュリは殺人者―現在はユリという一応の相方はいるものの基本的に一人勝手に行動する
故に一対一、ないしは一対多の戦闘メソッドを知っている
ざっくりした話、経験値が違うのだ
同じように一人で対抗出来るのはそれこそ彼等の長であるキョウヤか天才たるエリーか、最大の力を発揮した時のリリィくらいだろう
しかし、ケンタには逃げるという選択肢を浮かべなかった
騙した、殺そうとしている―様々な理由はあるだろう
だが本音はどれでもなかった
(気に入らねぇ…コイツは徹底的に気に入らねぇ!)
これこそが彼の心の内
これこそが彼の理由であった
何が等という具体的なものは彼には無かった
ただ怪しいと感じた瞬間から、苛立ちを感じていた
まるで、『毎回』そうなるのが運命であるかのように―
だから彼は斧を振るう
目の前の敵を否定する為に
だが、もう何十度目かになる攻撃をあっさりと回避されてしまう
「鼻は利いたが、腕は三下以下だねぇ!!」
そうして掬い上げるように振るわれた薙刀は、いとも容易くケンタの手から両手斧を剥ぎ取ってしまう
勢い負けしたのもあいまってか、ケンタは一瞬上を見てしまった
ジュリはそれを見逃さない
素早く右手で拳を作り、彼の腹へ見舞う
深く入った上に捩じ込まれるようにして撃ち込まれた拳に彼の身体は僅かに浮遊する
「削ぎ落としてからにしてやるよ!!」
直後、素早く振るわれた薙刀はケンタの左腕―肘から先を斬り落としてしまった