第14章 第21層~第30層 その1 "Trap"
だが、そんな余裕のある状況も終わりを告げた
辺りに低く響く音――何か重いものが地面に当たって僅かな振動を生み出している
当然私達ではない
だとするならば、残る可能性はたった一つ――あの人型ミミックだ
人体よりも巨体で床に大穴を開ける事が出来る怪力ならば十分有り得る
出来る事なら今遭遇するのは避けたい
私は剣を折られているし、部長は片足を失っている
しかし、ならばどうする?
少なくてもこれまでは一本道、しかも狭い
遭遇した場合、逃げることすらままならないだろう
「進んでみよう」
ややあって、部長が口を開いた
「なに、こういう所って入ってきた所からは出られなくて、出口が別に用意されてるパターンが多いからね。無論、遭遇リスクはあるけど、やるしかない」
私個人としては不安が大きい
だが、脱出と合流を第一に捉えるならば部長の言うこともまた是であろう
思う所はあるが、私達は再び歩みを進める事にした
とは言うものの、そう簡単には進まない
依然として部長の欠損状態のままな上、恐らくミミックの歩みであろう振動は何処からともなく響いてくる
道幅は変わらず狭く、十字路や曲がり角の類いはあれど、身を隠せそうな小部屋の類いは見つからない
また私自身の疲労もありスピードそのものはかなり遅かった
余裕はないが休みも出来ない
動き続けてないと対処に遅れる気がしたからだ
発見される前に出来る限り進んで、出口を見つけなければ――そう思う私は、突如足を何者かに掴まれた
「―――‼」
明らかに部長の、いや人間の物ではないサイズと冷たさ
まさかと思った――だがそのまさかだった
私達を付け狙う人型ミミックが私の足を掴んでいた
「チィッ――」
部長が杖代わりにしていた槍をミミックの手へ突き刺す
掴んでいた手が離れ、私は部長を抱えたままブーストを使って無理矢理後方へ跳ぶ
ゆっくりと現れるミミック――一体何処からと思ったが答えはすぐに判明した
暗がりで見えにくいが仕掛け階段が下へ繋がっている
まさか敵がステージギミックを使うとは予想外だった
だがその予想外さに驚いている暇はない
この場を切り抜けなくてはならない
だが私は剣を折られ、部長は片足を失っている
万事休すか――そう思われた時、私達とミミックの間に別の影が割り込んだ