第14章 第21層~第30層 その1 "Trap"
肩を支えるようにして、部長の身体を持ち上げる
一つ年上、しかも男性の身体を現実ではロクに外に出れない私が支えるというのは、ゲームの補正を用いたとしても至難の技だ
ぶっちゃけ言うと重い
それはある意味当然だ
相手がエリーくらいならまだしも、部長ともなればそれ相応になる
だが、支えなければ部長は動けない
部長が痛みに耐えているのと同列には扱えないが、私もこれに耐えなければならない―そんな気がした
私達の歩みは遅い
それもそうだ―部長は足に欠損、私がそれを支えている
故に歩みが遅いのも当然だった
だが幸いというべきか、例の人型ミミックどころか、敵に該当しそうなものには一切出会っていない―それだけは良かった
故に少しずつではあるものの、着実に歩みを進める事が出来た
尤も、足場が荒い故、特に部長の歩みには気を付けなければならず―
「…っと、大丈夫ですか?」
「ちょっとヒヤッとしたけど、大丈夫だ。ありがとう」
―というような事も幾らかあった
その度に、少し支え直しを行う
その度に、部長の腕に、背中に、肩に触れる
こんな事、今までにあっただろうか―ふと、そんな事が頭をよぎる
ミヤはいつも私の後ろから自分が誰か何てやって来た、エリーは特にこの世界にいるようになってから私に寄ってくるようになった
接触が多くなったとしても、この程度
(こんな事は、今までなかった…)
そう感じた瞬間、急に感覚が鋭敏になった気がした
私の手が部長の手を、反対の私の腕が部長の背中を、私の肩が部長の重さを―その全てに血の温かさを感じる
ミヤ、エリー―この二者とは違う、決定的に違う異性の温かさ
この温かさが、何故か私の顔を熱くさせる
視線が自然と下を向いてしまう
足元が危ういから当然といえば当然なのだが―何かを意識してしまって、上を向けないでいる
(駄目だ駄目だ―)
今はそれよりも大事な事―生き残って、皆と合流するという目的がある筈だ
ここで妙な意識なんて―
「疲れてないか?辛かったら、一旦休んでもいいぞ」
「えっ!?…い、いやいやいやいや、全っ然元気ですから大丈夫です!」
急にかけられた声に素っ頓狂に返してしまう
普段と違う、変な高さで出た私の声がその場に響き、妙な恥ずかしささえ生まれる