第14章 第21層~第30層 その1 "Trap"
何処か遠くで声が聞こえる―私を呼ぶ、聞き慣れた声
浮かび上がる意識に身を任せ、目を開くと、直前の記憶とは大きく異なっていた
暗闇に満ち溢れた場所を、松明の炎が辛うじて明るく保っている
先程よりも硬く、荒い床を全身で感じている―どうやら倒れていたようだ
「とりあえず大丈夫みたいだな」
闇が場を支配する中、声の正体―部長は目の前にいた
そうだ―と漸く記憶が繋がってくる
さっきは上にいて、大量のミミックを相手にしていて、その内一体しか見えなかった人型の拳が、私の剣を折り、私はそのままここへ叩き落とされたのだ
「すみません…ありがとうございます」
「いいよ、敵の強さの都合上一人にする訳にはいかなかったし。ただ、それなりに代償は払ったけどね」
そう言いながら壁に添って座った部長の右足は、半分しかなかった
「ぁ…」
欠損状態
私も一度体験した事のあるこれは、想像を絶する痛みの筈
それにも関わらずここにいる―あの時呆気なく意識を落とした私が申し訳なく感じてしまう
「大丈夫、こういうのは逆に勲章って言うもんさ」
そう言いながらも、耐え難い痛みが走るのか部長は時折顔を歪ませる
痛ましい―ただそれだけしか思えなくて、何も出来ない
「さぁ、そろそろ移動して皆と合流しよう。それであの馬鹿力をどうにかしないと」
そう言いながら無理に立とうとする部長
槍と壁を使って身体を支えようとするも、やはり上手く立てる訳ではない
「あの…私…支えます」
故に私は、いつの間にか、こんな事を口走っていた