第14章 第21層~第30層 その1 "Trap"
部長の言は続く
「そこでちょっと考えたんだ。元々辛い事やってる訳だし、快適さも求めて良いんじゃないかってね」
快適さ―つまり心の保養という事だろうか
確かに、戦いばかりともなると殺伐という雰囲気になる
現状、多くの人々が安定を保っていられるのはこの世界がゲームであり、戦いが旧時代における狩りや採集と同じ意味を持ち、生活となっているからだ
しかし、危険の度合いは変わっていない―むしろ上がっている程だ
そうなると、単純に考えて我々プレイヤー陣の余裕が無くなる
「そういう訳で俺が考えたのは、拠点。何処かを俺達だけの拠点にすれば良い、っていう事で今日はシンジと良さそうな物件が無いか調べてきたんだ」
拠点―部長の言を頭の中で反芻させる
単にクリアを目指すだけなら最悪必要ではないだろう
最新の層の宿に泊まれば良いし、リスク過多を承知の上で野宿にする事も理論上は可能だろう
だが、この世界での戦いが生活と化している
非日常が日常になりつつあるのだ
そうなると拠点を持つという事の意味が変わる気がする
流浪ではなく、拠点―家を持った生活者となる
(確かに…あると気が楽かも…)
そう考える自分がいる
現実の家を目指した筈が、ゲーム内の物件を買う
滑稽に見えるが、今この場において拠点―固定された帰る場所がある意味は大きい気がする
しかし、問題が無い訳ではない
「物件…って事は、家かそれに準ずる建物を購入するって事ですよね?」
「まぁ、そうだね」
「って事は、普通に考えて物凄い額のお金が必要ですよね?」
「ま、まぁ…それは―」
「ぶっちゃけ無いと思う」
ユウの質問、エリーの一言に部長は机の上に崩れた
隣のシンジ先輩が「ほら見ろ」というような顔から、既にこの問題に当たっていたようだ