第13章 第11層~第20層 その5 "進撃"
静かに宿の扉を抜け、街に出る
相変わらず風を切る音は聞こえる
耳に入るその音を頼りに、歩を進める
詰め込まれたような雑多な雰囲気の街並みには幾つもの細い路地があり、気を抜くと迷いそうになる
しかし、ここで聞こえる範囲だ
幾ら響くとは言え、恐らく遠くはない筈だ
その証拠であるかのように、角を曲がり、歩みを進める度に音は重みを―リアルさを増していく
もう近い筈―そう感じながらもう一度角を曲がった私に一人の人物の背中が目に入った
手に握るは両手斧―見知った姿だ、顔を見ずとも誰だか分かる
私達の仲間、ケンタだ
彼は何度も斧で空を切っている
素振りというものだろう―そう言えば密かにやっているなんてのを、小耳に挟んだ記憶がある
尤も、決して本人は口にしないのだが
斧を振るう彼の姿はまさに真剣
そこに意識を集中しているのが理解出来る
だから私は陰から見ているだけでしていたのだが、不意に彼が振り向いた故に視線がバッチリ合ってしまった
「ようリリィじゃんか。ってかお前何してんだ?巨人の星の姉貴みたいだぜ」
「どういう例えなのそれ…」
確かに陰から見ていたのは認めるが嘆息せざるを得ない
しかし、これで心置き無く堂々と動ける
「素振り、いつもやってるの?」
「あ?あぁ、時間のある夜中をちょっと使って軽くやってるだけさ。システム的に意味があるか分かんねぇけど」
これと言って特別ではないという口調
しかし、このゲームがスタートして随分経つ
仮にその時から始めていたとしたら、かなり長く続けている事になる
「ずっとやってるんだ…凄いな、それ」
「いや、生き残るのに必死なだけなのよな」
そう言いながらケンタは軽く頭を掻いていた