第11章 第11層~第20層 その3 "事案"
「色々考えたさ。今みたいにデュエルを使うとかモンスターを誘導するとか。まぁ、その途上であんな化物に会うとは思ってなかったけど」
化物―とはあのトンファー男の事だろう
だが、私は逆に言ってやりたかった
故に痛みを無理矢理我慢して、ウェンドロの方を口をゆっくり開く
「要は…殺す快楽でしょ…そんなだからすぐにつまらなくなるに決まってるじゃない。アンタも十分、アレと同じ化物でしょうが…」
何故言いたくなったのか―それは分からない
だが、強がりに近かったそれには、彼の中に何かしら引っ掛かる部分を生み出したようだった
「…僕は人です。確固たる目的があって、それを達成する為に何が必要かを考えて、実行し、改善する。何がおかしいんでしょう?」
表情が硬くなった彼は、割りと本気で疑問に思っているようだ
だから、言ってやりたい
例えそれが、危険な道だとしても
「それが分かんなきゃ、人になんかなれっこないって」
そう言いながら、彼の顔に唾を吐く
全く何をしてるんだか―そうも思ったが、後悔はなかった
そして、ここで止めるつもりもない
吐いた直後に、ブーストをかけた右足を出来る限り回して蹴りを放つ
当たってくれ、離れてくれと祈った一撃は、上体を反らされ呆気なく回避されてしまった
イラついている―それがハッキリ分かる強張った顔
「……良いでしょう、殺しますよ」
案の定というか、考えた通りというか、予想通りだ
ここまで色々やってきたが、一個だけやっていない事がある―"引き出し"だ
人に対して使って良いものか、と考える私もいるが今はその限りではない―使いでもしなければ、死ぬ
剣が振り上げられると同時に頭を探る
見つける事にそれ程時間はかからない
だが、それは彼が簡単に剣を振り下ろすのと同じだ
私が"引き出し"を開けるのが先か、彼の剣が私に届くのが先か
目を閉じて、見付けた"引き出し"に手を伸ばす
迫る剣、それは一瞬―だが、私とて同じだ
そして"引き出し"が開く―今だ
だが、目を開いた私の前に一人、突如として現れ割り込みをかけ、ウェンドロの剣を留めたのである
剣を抑える得物はトンファー
つまり―
「よう、また会ったな」
―最悪の人物、トンファー男が現れたのである