第11章 第11層~第20層 その3 "事案"
必死に歯を食い縛り、身体を後ろへ動かす
霞む視界、荒れる息―涙と喘ぎが度重なる痛みを代弁している
「逃げてください逃げてください…追い付いて殺してあげるけど!!」
そう言って彼は私に向かって跳躍
させるまいと剣を振るうが、彼はいとも簡単に剣を弾き、吹き飛ばした
駄目だ、こんな状態じゃ駄目だ―
剣が飛んだ直後に俯せになり、今度は正面となった方向に逃げ―
「駄目です」
「っ゙っ゙!!」
ウェンドロに左足を掴まれ、勢いを消され、手と顔を地面にぶつける
しかも―
「ぐ…ぎ…が、ぁ゙ぁ゙…」
―裂かれた左足、わざわざその裂かれた部分に指を刺している
直接怪我部分を抉られているような、激痛に耐えながら、口を開く
「何でこんな真似ぇ!!」
必死に紡いだ言葉は疑問―
何故だ、何故こんな真似をする?
初めて見かけた時はこんな人ではなかった
だが、今の彼はまるでこれだけが目的だったかのような印象を受ける
「何でも何も、スッキリするんですよ」
疑問に対する答え
それは一般的で、普通の人殺しの答えだった
「初めては兄さんだった」
足を掴んだまま、彼は冥土の土産とばかりに語り出す
「僕より無能な癖に楯突いて…邪魔だったんだよ。だからモンスターを誘導して死んでもらったのさ。劇的にね」
驚愕を隠せなかった
これまで知っていた事とは違うではないか
このウェンドロという男、血の繋がった人を邪魔という理由で殺したのか
「凄くスッキリしたよ。邪魔者がいなくなったからね。清々するという奴だよ。でも、それ以降、何だかつまんなくなっちゃってさ…だからもう一回、適当な人を殺ったらまたスッキリしたんだ。まぁ、ペナルティで街には入れなくなったけど、その分サバイバルで多少強くなったからね。だから次はもう少し強そうな人を殺そうって探してたんだ」
分かった分かった、もう分かってる
つまりこういう事だ―騙されていた
少なくとも私はPKを助長していた人物を、信用していたという愚をしていたのだ