第11章 第11層~第20層 その3 "事案"
向こうが右手で持った剣は、私の左斜め上から迫る
斬られる訳にはいかない―私も斬撃を繰り出し相殺、鍔迫り合いとなる
だがやはり彼の方が重い、少なくとも今は一人でやっているのだから、いわば鍛え方が違うと言った所だろうか
抑えるだけに両手を要する
直後、右から顔面に衝撃と痛覚が襲う
殴られたと知覚する時には、既にもう一度殴られた後だった
右手を剣から外し、彼の拳を抑える
必然的に少しずつ彼の剣が迫るが、させるまいと私は彼の腹に膝蹴りを撃ち込む
鍔迫り合いから解放された私は、すぐさま斬撃を繰り出すが、彼はそれを軽く後ろに跳躍して回避―互いに出方と距離を測る形となる
「さっきから殴ったり蹴ったり…ちょっとは女の子に優しくする気はないの?」
「…戦いですから」
距離を測りながら、口走った言葉に彼はまさに最低限という具合に答える
戦いの中にあれば、誰も変わらないという事だろうか
先程会話していた間とは全く違う目付きを見ながら嘆息してしまう
分かっていたが―
「全く男ってのは―!」
ボヤいたのと同時に今度は私が先に走る
速くて重い、押し合いになれば不利―だったら先手を取ってそうさせなきゃ良い
上から、下から、斜めから―連続で放つ剣撃は、彼の体捌きにより空を斬るだけとなっている
それでも、続ける
徐々にで良い、加速して、加速して、加速して―突く
体捌きの間、体重と体重が移る瞬間を文字通り突く
彼の頬を切っ先が掠める
僅かに斬れた彼の頬が、赤いエフェクトと共にダメージとなる
しかしながら、彼はそれにも意に介していないのか、突きの動作の為に出た私の腕を掴み、引き寄せる
掴まれる襟首、引っ張られ天地が逆転する私の視界―直後、背中への衝撃に肺が空気を押し出した