第11章 第11層~第20層 その3 "事案"
(いや、違う筈だ―)
この世界での事、現実での事―それらが私に否定を促す
お前自身を思い出してみろ、と言うが如く頭に"引き出し"が現れる
あぁ、そうだった
一々言われなくても分かる
私にはそれがあった―"白"だ
幾度か私を呑もうと、喰おうと、消そうとした
その度に私は消さないでと払って、震えていた
だが今、私は消えかけた先にあった影を知ったのだ―皆のお陰で
命を張って、私を繋いでくれた
だから、今は"引き出し"という形で表す事が出来る
そう考えると、私が今持っている力というのは皆の力で成り立ったという事になる
そもそも戦う事も、部長がおしえてくれたのだ
私一人に限定し、仮に私が強かったとするなら、私はまだ強さの入口に立っている程度なのだろう―当たり前だが、私は見た目が多少白いだけのただの女だ
だとするなら、私の強さは皆で成り立っている
故に―
「まぁ、皆がいたから…ね」
―口を吐いて出た言葉に、何となく自ら納得してしまう
ではこの少年はどうだろうか
共に進む筈の兄を既に亡くし、今彼は一人でこの世界に挑んでいる
彼のような少年が一人で生きていくには、この世界は辛い筈
なのに一人でいる―理由は分からないが、それが彼の選択だ
一人でその選択をし、今も挑んでいる―それもまた"強い"という事の形ではないだろうか
何となく、そんな思考に至る
「そういう貴方も、充分強いと思う」
そんな私の言に、彼は「そうですかね…」と呟きながら、下を見るばかりであった