第11章 第11層~第20層 その3 "事案"
「あ、いや別に変な意味はなくって、ただこの前の礼がしたいっていうか、その…」
突然の提案に少々驚いた私に焦ったのか、ウェンドロは急に捲し立てる
単なる厚意が、好意と勘違いされて変に捉えられたかもしれない、と考える思春期特有のもの
だが、提案自体は悪くない
むしろ願ってもない状況だ―素直に助けを求めても良いだろう
「確かに、今は一人より二人の方が安全だし…お願いしてもいい?」
「あ…はい!」
彼も、まさかこうなるとは思っていなかったのか、私の答えに少し表情を明るくした
「リリィです、改めて宜しく」
「ウ、ウェンドロです。こちらこそ、宜しくお願いします」
偶然にも決まった合流への旅
それは握手という契約で始まった
互いの地図や壁の損壊を参考にしながら私達二人は進んでいく
時折現れては襲い掛かるサンダーローチを倒しながら、とりあえずクエストボスの"ギルダークエイク"と接敵したエリアへ向かおうという方針の元、歩みを続けていた
「それにしても…」
地図を見ながら歩く私にウェンドロの声が入る
彼の方に視線を動かすと、彼がこちらを見ていた
その視線は何か大切なものと重ねているような、純粋で身近な憧れを見ているような視線であった
「リリィさんって本当にお強いんですね。凄いな」
「そう、かな…」
強い―
曖昧に答えながら、私はその語を考えてしまう
この世界に囚われて、暫く経つ
その間には確かに幾つもの戦いがあり、私は皆と一緒にそれを潜り抜けてきた
だが、それで"強く"なったのだろうか
確かに死にたくないから、皆と生き残りたいから戦ってきて、戦いの技術はある程度身に付いただろう
それだけで強くなったと言えるだろうか―力を手にしたという事実は、強くなったと完全にイコールなのだろうか
私の中に疑問が渦巻き始める
私は、この少年の言う通り、強いのだろうか