第11章 第11層~第20層 その3 "事案"
月明かりが彼を照らしている
瓦礫の中佇む彼は、まるで何かを待っているような、何かを思い起こしているように、目を閉じている
あれからどのくらい経ったのだろうか
いや、そんな事を考えるより、今後をどうするか―どうしたいかだ
まさかあんな化け物と出会うとは―
あの瞬間は確かに彼の命の危機であった
しかしながら、彼はその化け物に一度出会ったのだ
今度見掛けたら、周到に、慎重に対応してやるべきだろう、と彼は考えを巡らせる
突如、彼が目を開き、後ろを振り向く
その視線の先には、昼間にもいたアスターク
あの時とは違い一体だけ―その状況に彼は、またか…と言いたげな溜め息を漏らす
そんな彼の心境も知らず、アスタークは彼に拳を勢い良く突き出す―が、直後にその拳は腕ごと真っ二つとなり、その切れ目は身体に届き―自らを砕き散らした
砕け散った結晶の中、彼はもう一つの出来事を思い出した
自分を助けた七人組―あの時、アスタークと自分の間に割り込んだフードの女
「強かったな…」
何事もなく聞こえる呟き
しかしながら彼には、特別な意味合いを持っていた
「強い…強い…強い…」
"強い"
ただそれだけを繰り返した彼は、一つの案に辿り着く
そうだ、あの人にしよう―まさに天啓とばかりの案に彼の顔は晴れやかになる
「フ…ハハハ…」
静かに木霊する彼の笑い
月すらその笑いの真意を知らず、彼は瓦礫の影に消えていくのであった