第8章 第1層~第10層 その7 "一区切り"
薄暗い迷宮区と呼ばれる区画の中―彼は走っていた
全力で駆け抜ける彼の遥か後ろには、身の丈程の鎌を携え浮遊移動する死神
通常なら認識範囲外になる筈だが、何故か死神は彼を追っている
曲がり角を跳躍するように曲がり、そこで一息吐く
だが、これで終わらない事を彼は直感していた
恐らくあの死神はその名の通り死神で、ターゲットを見付けた場合、死ぬとかそういう事態にならない限り、永遠に追ってくるAIでも搭載しているのだろう
だから見付かったからには、死ぬか殺すかの二択しかない
「クク…ククククク…なんだ、だったら簡単じゃねぇか…」
その通り、彼には簡単な二択だった
死ぬか殺すかの二択ならば…殺す以外に何がある?いいや、それが楽しい道だ
死ぬ感覚なんて知らないし、分からないから殺す感覚の方がより楽しい
そう考えた彼は自身の得物であるトンファーをもう一度握り締め、全力で来た道を戻る
「最初は面倒臭ぇとも思ったがよ、そんなに来るんなら相手したくなるじゃねぇか!そら来いや!!俺を楽しませろ!!そんで俺に殺られろや!!」
正面に跳躍し、勢いを付けてトンファーで殴りかかる
死神の鎌とぶつかり、火花が飛び散る
彼の楽しみ―楽しみたいという感覚はこれを越えた先に満たされるか
いや、満たされないからこそ彼は全力で駆け抜け続けるのだ