第2章 第1層~第10層 その1 "旅の始まり"
誰にも生まれている混乱も意に介さず、蛇は粘着質に言葉を続けている
「聡い諸君等ならば分かるだろう。要は一度もやり直しをせず、黄昏の女神を目覚めさせよ。これこそが諸君等に与えられた最重要事項に他ならない……十分に…生きたまえ」
十分に生きろ?―殺そうとしている輩が何を言っている
現実ならば暴動になってもおかしくはないだろう
だが今、広場にいるプレイヤーの全てはまさに蛇に睨まれた蛙
何故か動けない
「これより数時間、諸君等に多少通信障害が発生する。これは諸君等の現実において、諸君等の身体を医療機関へ送り届ける為に発生するものである。但しそれが完了し次第、外部よりナーヴギアの停止もしくは着脱を試みた場合、その対象となった者にナーヴギアよりマイクロウェーブが照射される」
つまり、死に方は一つじゃない
自分が突然死ぬ事も…可能性としてはある
「さて、これにて諸君等に伝えるべき事項は以上である。最後に…私から激励を兼ねて贈り物をさせて頂こう…全員、所持品を確認したまえ」
今度は何だろうか
本当に激励を兼ねたプレゼントな訳は無い
だが、確認しなければそれはそれで不気味なままだ
癪だが言うままにストレージを確認する
これまでのプレイングで手にいれた品が並ぶ、その一番下に取った記憶の無い品があった
手鏡、とある
選択すると、紛う事なき手鏡が現れた
尤も、意匠が殆ど無いシンプルな一品だが
鏡の中には私―正確にはアバターだが、私が私を覗いている
アバター作成時に設定した黒髪の少女だ