第7章 第1層~第10層 その6 "Once More"
何を言っているのか、すぐには理解出来なかった
しかし次第に意味が分かってきたプレイヤー達も疑問に思い始め、私も少しずつ状況を理解してきた
そうだ
今までのボス戦ではボスを倒したら、割りとすぐに空間が迷宮区のものに変化した筈
しかし今はまだ暗く、雨が降る崖の上に今生きている全員が残っている
(これが示す意味…それは…)
頭の中で仮の答えを思考すると同時に事態が動く
部長とシンジ先輩の更に奥―まさに空中しかない筈の崖から、大きな影が飛び出して来たのである
それは私達を飛び越え、若干先へ続いた道を塞ぐ様に着地した―
「なるほど…第二ラウンドか…!」
奈落へ落ちた筈の第八層ボスUー3
それが復活し、もう一度私達の前に立ちはだかったのである
HPは嫌な事に回復している
しかし見た目の傷は残っているらしく、最後についたであろう眉間に亀裂が走り、体液と脳漿を垂れ流し、醜悪さは先程より増している
背中の顎の刃の部分が先程より発達して、巨大な鋏の如く光を反射している
顎の口からも涎が流れ、ただでさえ気持ち悪いものが更に気持ち悪くなった印象である
「やってくれたなコイツ…」
ここからが本当の戦いだ、とばかりに大きく呻くボス
鋏は自律行動を増やし、獲物を寄越せと自らを振り回す
「上等だ化物。カタを着けてやる」
誰よりもボスに近かったジンが、より前に立ち自身の得物を構える
その立ち位置かボスもターゲットをジンに取り、顎の鋏を差し向けた
先程よりも速く動く鋏は獰猛にジンに襲い掛かるが、彼はそこに自身の両手剣を差し込み鋏を抑えた
ギチギチと剣を砕かんと唸りをあげる鋏、しかし当のジンはいたって通常運行であった
「この程度で…砕けはしない!」
彼は更に両手剣を押し込んだ上で、鋏の奥―生えている肉体部分を潰す様に斬り裂いた
痛みに喘ぎ、暴れる顎の鋏
ボスも多少怯んだものの、左腕の鞭を繰り出す
彼は既に防御回避の体勢に入っているが、一つの影が、間に割り込み鞭を払い防いだ
「俺も、参加させてもらうよ」
ジンの隣で槍を構える影―部長がその場に躍り出たのである