第7章 第1層~第10層 その6 "Once More"
シンジ先輩を巻き込もうとしていたボスは、相手の筈だったシンジ先輩自身に止めを刺され、奈落へと落ちていった
そのお陰か、急に軽くなったシンジ先輩を七人で支えるのは容易く、すぐに崖上へと引き上げる事に成功したのである
しかし…まさかあの両手剣男まで協力してくれるとは…多少濃い人間ではあるが、良い人なのかもしれない
「やったな…シンジ…」
「当たり前だ…俺を、舐めるな…」
目の前―崖の縁付近では功労者たる先輩二人が大の字になり、息を整えながら軽口を叩き合っている
時間制限がある中、ボスをギリギリまで引き付けたシンジ先輩
他のプレイヤー達と出口を探し、ボスに巻き込まれ落とされようとしていたシンジ先輩を助けた部長
この二人だからこそ、互いに任せる事が出来たのだ
「だが…助かったぜ、キョウヤ。それとジン、お前もだ」
そしてそこに加わる別の力、あの両手剣男―ジンというらしい、彼の協力もあったから上手くいったのだろう
上体を起こしたシンジ先輩に、既に歩き出していたジンは一度止まり、口を開いた
「言ったろ。せっかく名乗った奴に死なれるのは惜しいとな」
「そうか。だったら次会う時に死んでるとか―」
「あぁ、無しだ」
そうして彼はまた先へ、一早く進んでいく
何故彼が今のようなやり方を選んだかは分からないが、とりあえずここで協力し合ったのを無駄にしない為に、如何にやり方が違えど生きて再会するという誓いがそこに成立したのである
何はともあれ…これでボスを倒した
そう私は思ったが、直後他ならぬジンが歩みを止め、周りを見だした
完全な勝利ムードの中、何があったのか誰にも分からなかった
少なくとも彼以外は―そして彼は一言「ちょっと待て」と言い、更に続けた
「…どうして空間が戻らない。このままだと、次の層へ繋がる扉を越えられんぞ」