第7章 第1層~第10層 その6 "Once More"
何が来たかは分からない
だが何であれ、これに負ける訳にはいかない
シンジは伸ばした右手で崖の縁を掴み、落ちるものかと耐える
左足には何かが巻き付いている
強い力で締め付けてくるこれは―
「野、郎…」
第八層ボスUー3
醜悪な異形が左腕の鞭を彼の足に巻き付け、自らもぶら下がっている
何て執念だろうか、その生存本能に等しいAIには脱帽せざるを得ないが、そんな暇は無い
彼の右手は徐々に崖の土を削り、少しずつ重力に従おうとしている
手に力を込めれば込める程、彼の手は土に汚れるだけで削る量を増やす
そして遂には、指の先にある土が欠けて彼の身体全てが空中に浮かんだ
彼の身体が崖から離れ、死を覚悟した瞬間―
「シンジィィィィ!!」
彼の手を、別の手が掴んだ
彼を繋ぐ、その手と姿
崖から身を乗り出し、自らも落ちる危険を冒しながらも彼の為、手を伸ばす友の姿であった
「キョウヤ…」
やはりお前か、と言いたげな呟きは発言者―シンジに力を与えた
絶対に離すものかと手を握る彼の手を、自らも強く握り返す
「絶対離すなよ、シンジ!!」
「離すかよ、キョウヤ!!」
強く握りあった互いの手、そこに次々と手が重なる
友と同じように身を乗り出す、後輩達―そして、あの両手剣使いのジン
「お前…」
「せっかく名乗ったんだ、死なれるには惜しい」
一人が込める力、皆が込める力が増えるだけ彼の力も増えていく
だからこそ彼には今、最後にやるべき事がある
自らの得物である曲刀を左手に持つ
利き手ではないが、この際関係ない―何処に当たっても同じだろうから―
「だから…消えろ!!」
最小の動きで曲刀を投げる
それは強い一撃ではないが、重力に従い、勢いを増し、ボスの眉間に刺さったのである
呻きをあげ、ボスの力が抜けていき、醜悪な巨体は奈落へとその身を落としていった