第6章 第1層~第10層 その5 "天才"
この直感を感じた理由は他ならぬ彼女自身にある
今現在、彼女は移動先のビルに入る直前にもう一撃矢を放っている―しかも、直後にあるボスのビームを避けて、無事ビルに侵入したのだ
第七層現在―これを出来るプレイヤーは彼女の他いない
何故なら彼女には出来てしまうから
彼女には、そういう才能があるから出来てしまうのだ
エリー:Erie
このアバターを使う少女プレイヤーには一つ、特異な才能があった
VR技術を用いたゲームの際、普通は自身の身体をそのまま使うが、流石に通常の物理法則に無い動きは難しい
しかし、彼女はそれを軽々とこなしてしまう
更に戦いや推理等の要素すら、彼女には楽な事象でしかない
物によって多少かかる時間に差異はあるものの、平均数時間で慣れが来てしまい、いつの間にか並以上の行動が出来てしまう
VR環境における彼女の身体能力は通常の物理法則を、現実の彼女を越える事が出来る
何故…と言われても彼女は答えられない
何気無く数作プレイして分かった結果でしかない
とにかく彼女は彼女自身にそういう才能があるとしか分からなかった
彼女はこの才能を別段悪くは捉えてはいない
確かに簡単にクリア出来てしまうのでつまらないと言えばつまらない
つまらない上に、受け入れられない
この強さを皆は都合が良いと思うが、気分が良いとは思わない筈だ…そう彼女は考えていた
故に普段の彼女は、なるべく現実の自分に則した力で動く事を念頭に置いている
尤も、危機的な状況に陥った時はその限りではないが
そして今は、間違いなく危機的状況である
故に彼女は"本気を出す"のだ